【症例から学ぶ!】外来がん認定薬剤師 事例審査対策②

それでは、実際の介入事例をいくつか紹介しながらより具体的な対策について記載していきます。合格者の事例や、各種書籍なども参考にしています。

介入事例の種類、事例数について

いきなり話はそれますが、病院薬剤師会のがん薬物療法認定薬剤師における事例提出時には、自身の症例がどの癌腫に何例該当するかを記載する欄があります。肝胆膵はひとまとめにされていますが、大腸はそれのみで1項目となっています。日本病院薬剤師会の認定では1癌腫につき20例までしか使えません。合計で50症例必要なので、最低3癌腫以上への介入が必須となっています(大腸癌のみへの介入50例では不可で、胃や肺などの他の癌腫への介入事例も必要)。臨床腫瘍薬学会より公式アナウンスにて癌の種類や、事例数の制限はないとのことですので、これはそこまで気にしなくてよいかもしれません。

ただし、多種多様な薬剤と副作用、癌腫に対応できることは、認定薬剤師として必要な資質です。学会発行のQ&Aから、同一薬剤の同一副作用マネジメントを行った場合は、別事例として認められないので注意しましょう。それはレジメンが異なっていてもNGなので、例えばBv+FOLFOXで高血圧、Bv+FOLFIRIで高血圧の介入は2事例として認められないとされています。同じ薬剤の同じ副作用への介入事例は被らないようにしましょう。

介入事例作成にあたり

それでは本題に入ります。前記事の「何から取り掛かればいいの?」の内容を考慮して、事例となりそうな症例を探します。

まずは自施設で取り扱っている薬剤を洗い出してみましょう。よく使われている薬剤がもちろん介入チャンスが多いですが、たとえば前立腺癌のビカルタミドなどのホルモン療法は介入が難しいです。ホルモン療法は問題となる副作用が少なく(だからこそよく使われるのですが。)、薬剤師による介入タイミングはほとんどありません。

一方で、殺細胞性の抗癌剤は何らかの副作用が起こりやすいので対象患者を見つけたらアプローチしましょう。近年の分子標的治療薬は多種多様な副作用が起こりますが、殺細胞性のものは昔から使われていることもあり、副作用の種類や時期が予測しやすいです。嘔気や下痢、便秘、口内炎など代表的な副作用についての介入を狙いましょう。もちろん、分子標的治療薬の副作用にも介入しやすいものはあるので、逃さないようにしましょう。まずは、よくみかける悪心・嘔吐に対しての介入をとりあげてみます。

介入事例作成パターン①「悪心(嘔気)・嘔吐」

この副作用はとにかくQOL低下が著しいです。私の経験で、患者さんへ問診時に聴取した感じでも大多数の人が、最も不安な副作用として挙げてきます。それゆえに放っておかれることは少ないですが、年齢や性別、喫煙歴、飲酒歴などの様々な要因によって発現リスクが異なるため対策に難渋することもあります。
嘔気には3種類あり、「早発性」、「遅発性」、「予測性」とあります。大体24時間以内に起こるものを早発性、24時間以降を遅発性としており、それぞれ対策が異なりますので、どれに該当するかは必ず把握しましょう。予測性はその名の通り、嘔吐に対する予測、不安感などからくる嘔気です。
ちなみに介入チャンスとしては遅発性嘔気に対するものが多い印象です。点滴終了後時間が経ってから起こることもあり、患者さん本人も抗がん剤の影響が残っていると思わず我慢されている場合があります。

対策としてはまずガイドラインを確認しましょう。制吐薬適正使用ガイドラインにて各々の対策が記載されているため、ガイドライン通りにいけば対策に迷うことはあまりないでしょう。問題はガイドライン記載の対策をしても発現してしまう例です。
ちなみに、膵癌のFOLFIRINOXのように各薬剤は中等度リスクであっても、レジメンとしては高度リスクとして扱うものもあるので注意が必要です。

対策薬として標準的なものは、「5-TH3受容体拮抗薬」「ステロイド」「NK-1受容体拮抗薬」があり、近年は追加オプションでオランザピンが使用されることもあります。もともとは統合失調症などに使われていた薬剤ですね。介入事例のポイントとしては、オプションとして指定されている薬剤をうまく使えるか、です。

近年は、どの医療機関でもレジメンが整備され、嘔気対策はガイドライン通り制吐薬が組み込まれています。なので、中等度リスクなのにステロイドしか入っていない、なんてことはまずあり得ません。標準治療の制吐薬が使用されたうえで発現する嘔気に対して、オプションとしてNK-1受容体拮抗薬(中等度の場合)やD2受容体遮断薬を提案するというストラテジーが考えられます。

さらに制吐薬それぞれにも副作用が考えられます。ステロイドであれば血糖上昇、5-HT3受容体拮抗薬は便秘などが起こります。NK-1受容体拮抗薬にはCYP3A4の阻害作用があり、ステロイドの量を減量する必要があるなど相互作用にも注意していく必要があります。

このあたりを把握したうえで、事例検討をしていきましょう。

症例⓵ AC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)

症例⓵ AC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)
43歳女性 左乳癌術後、Stage2A、ER+、PgR+、HER2-、LVEF66%、術後補助療法として開始
グラニセトロン+デキサメタゾン+アプレピタント投与されたが、day2-5にGrade2の嘔気が発現した。事前に処方されていたメトクロプラミド錠5mgの内服で対応したが、2コース目から制吐薬の強化を希望された。

→問題点
高度リスクに準じた標準療法は実践できているにもかかわらず、遅発性嘔気が出現しており、制吐薬強化を希望されている。若年女性はもともとリスクが高いといわれている。

→介入例
遅発性嘔気に対してグラニセトロンから、より高い効果が期待できるパロノセトロンへ変更を提案する。2コース目より遅発性嘔気Grade0-1へ軽減を確認し、治療を完遂できた。

→考え方
メトクロプラミドで対処できていたとはいえ、制吐薬強化を希望するくらいなのでQOLへの影響があると思われる。術後補助療法であり安易な減量による治療強度の低下は避けたいところ。第二世代の5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンは特に遅発性嘔気に対して有効であるとされています。これでダメならオランザピン追加も考慮されるところです。薬剤変更後の経過も必ずチェックです!
ここでは特に触れていませんが、アントラサイクリン系薬剤のため心毒性チェックとしてLVEFは必ず経過を追いましょう。検査漏れがあれば検査提案も補助的に事例に記載できます。

もう一つ事例を紹介します。

症例② SP療法(シスプラチン+S-1)

症例② SP療法(シスプラチン+S-1)
45歳女性 胃癌、多発肺転移、StageⅣ
パロノセトロン+デキサメタゾン(4日間)+アプレピタント(3日間)の制吐療法実施も、シスプラチン投与2日後以降に悪心・嘔吐Grade3、食欲不振Grade3、便秘Grade2が発現し、S-1の内服が困難になった。

→問題点
高度リスクに対するガイドライン記載の標準制吐療法は実施できていますが、高Gradeの副作用が発現しています。また、付随して便秘も発現しており、S-1のアドヒアランスが低下しています。

→介入例
化学療法前日から4日間オランザピン5mgの使用とアプレピタントの中止を提案した。
2コース目より悪心Grade1、食欲不振Grade1、便秘Grade0となり、S-1のアドヒアランスも良好となり治療継続できた。

→考え方
一般的に標準の制吐療法で制御できない場合は、シスプラチンの減量が考慮されます。特にStageⅣの延命目的であるため減量が検討されますが、制吐薬の調節にて減量せず投与できれば、治療強度を低下させずに効果を期待できます。悪心・嘔吐では抗癌剤の直接的作用のほかにもあらゆる原因を考える必要があり、便秘や併用するオピオイドの副作用なども考慮します。もともと若年女性であることも悪心・嘔吐の発現リスクとなります。取り除けるリスク因子は取り除きましょう。(薬剤変更や支持療法薬の追加など)
オランザピンにはvsアプレピタントで遅発性嘔気を有意に改善した試験結果があります。また、アプレピタントに便秘の副作用があるため、今回はアプレピタントをオランザピンに置き換える選択をしました。追加としてもよかったかもしれません。
オランザピンは糖尿病には禁忌となっていますので、提案前には必ず既往歴を確認します。(海外では禁忌ではありませんが。。)

いかがでしょうか。制吐薬は昔と比べるとかなり進歩しましたが、今でもこの副作用に困っている方は少なからず存在します。制御できない副作用が現れたときは躊躇なく減量、休薬の提案は必要ですが、減量することにより治療強度が下がると期待できる薬効も下がります。副作用をうまくコントロールして治療継続のサポートをすることは薬剤師の腕の見せどころかと思います。
薬局薬剤師では制吐薬に対する介入は難しいところがあるかと思います。次回は、薬局薬剤師も介入しやすい手足症候群などをとりあげていく予定です。

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