外来がん治療認定薬剤師認定試験において、最も重要といっても過言ではない事例審査の対策について書いていきます。とにかく薬学的介入をしなければそもそもの事例が集まりません。疑義照会としてその場で処方変更となってもいいですし、トレーシングレポートによる処方提案で後日変更となってももちろん大丈夫です。メリットがないと医師に判断されれば、きちんと却下してくれますので臆せずいきましょう。
学会ホームページにてQ&A集も掲載されていますので、必ず全てに目を通しましょう。
介入事例の内容を決定するにあたり
提出事例は全10例であり、病院薬剤師会や医療薬学会のがん専門、認定薬剤師の50例と比べると少なくなっています。しかし、外来がん認定試験においては、まず外来の事例しか使えません。近年は、FOLFOXなどの点滴治療も外来導入の例が多くなっていますし、経口抗がん剤の種類が増え、免疫チェックポイント阻害薬も外来で行われることが一般的ですので多様な症例が対象となるでしょう。外来導入していても副作用などで緊急入院し、その副作用に介入した場合は事例として認められませんので注意しましょう。ちなみに、日帰り入院であれば外来患者とみなせるので、事例として使用できるようです。
がん治療は日進月歩ですので、古い事例は現在の推奨から逸脱している可能性があります。そのため、事例として使用できるのは過去5年以内のものとなっています。
2020年度に医療機関側の診療報酬点数である連携充実加算の導入により、保険薬局側でもレジメン等の情報が得られやすくなっていますね。重要な情報が多く得られますので、介入の糸口を見つけやすいです。この文書を持参した症例には積極的に薬学的介入を行いましょう。ちなみに直近の診療報酬改定で新規追加となったがん治療に関する加算はがん認定筆記試験でほぼ必出です。必ずおさえておきましょう。(診療報酬、調剤報酬問わず)
※連携充実加算とは、医療機関側の加算であり要件として①ホームページなどでレジメンの情報を公開していること⓶レジメンや副作用について記載した文書を患者に交付し、薬局へ提出するよう促すことなどがあります。医療機関によって記載様式は様々ですが、投与量なども記載があるため実施しているレジメン情報の詳細が入手できます。場合によってはお薬手帳に貼付されていることもあります。この文書を持参されるということは、ほぼ間違いなくその医療機関が連携充実加算を算定していることになりますので、薬局側は特定薬剤管理指導加算2の算定を目指していきましょう。
がんの介入事例と聞くと、難しいことをしているように思われるかもしれませんが、誰もが驚くような事例を書く必要はありません。エビデンスに沿った内容で、基本に忠実に介入していきましょう。がん認定に限った話ではありませんが、認定試験では当たり前のことを当たり前にできる、ことが求められています。
どんな介入事例が求められている?
ここでいう介入とは、医師への処方提案をさします。薬剤師には治療方針の決定権はありませんし、処方権もありません。ですので、医師への薬剤の追加、変更、中止など薬に関する提案でないと介入と認められにくいです。事例中に必ず医師へ薬に関する提案をした項目を入れましょう。検査の提案などは補助的に記載できますが、薬剤師ですので薬に関する提案は必須と思ってください。
これもよく言われることですが、1事例中に介入が複数あることが望ましいです。2項目以上介入(下痢と手足症候群など)することが望ましいですが、1つの介入内容に対して継続的にフォローし、薬剤の追加、増量減量、中止を提案する形でも大丈夫です。(例えば下痢の副作用に対して、ロペラミドを提案し、服用により下痢が改善しても漫然と処方が続いている場合に、中止、頓服への変更を提案したなどです。)
ただし、10事例全てがそうなると合格は厳しいと思われます。1介入が絶対NGということではありませんが、合格者の事例や研修会の例を見る限り2項目以上の介入があることが多いですので、できるだけ1つの事例で複数項目の介入を目指しましょう。
また、10事例のうちで同じようなレジメン、副作用に対する介入が多いようでは事例審査を通過できないといわれています。同一薬剤の同一副作用に対する介入は2事例として認められない可能性があります。(Bv+FOLFOXとBv+FOLFIRIでどちらも高血圧に対する介入など。)
こういったことを回避するためにも1事例中に2項目以上の介入をお勧めします。
同一薬剤、レジメンであっても別の副作用へのアプローチであるなど、多様な介入ができることを示しておくことが重要です。緩和ケアのみに関する事例は2例までに留めておきましょう。
せっかく色々と考えて準備をしても、そもそも介入できるような副作用がない、自身の知識不足で最善の介入ではなかったなど、事例として使えないとどっと疲れます。その過程は無駄ではないですが、どうせなら効率よく事例作成を行いたいものです。
何から取り掛かればいいの?
わたしが介入事例を探す上でまず始めたことは、とにかく周りの人が実際どういった介入を行っているかを知ることです。各書籍はもちろん、講演会や学会発表で事例のお手本を探しました。その中で、自施設において適応できそうな介入があれば、最も手っ取り早いです。なおかつ、介入が不適切な可能性は低いですから、まずはそこから始めてみるとよいでしょう。
たとえば、VEGF阻害薬使用時に発現頻度の高い「高血圧」の副作用と思われる患者において、降圧薬を提案することとします。基本的には高血圧治療ガイドラインに沿って、第一選択薬としてCa拮抗薬やACE-I/ARBをまず考えます。この時点で、まず禁忌、慎重投与項目に該当するものがないか確認し、続いて既往歴からACE-I/ARBを優先すべきかどうかを検討します。糖尿病やCKDがあれば優先します。尿蛋白や尿酸値も考慮して薬剤を選択できればなおよしです。(ロサルタンなどは尿酸値を下げる効果の報告がある)
検査値の確認は薬局では難しい場合もありますが、併用薬も細かくチェックして推測してみましょう。
ここでどれも問題なければ基本的には自身のよく知る薬剤(=主治医のよく使う薬剤)を選択します。年齢や血圧の値にもよりますが、低用量ではなくしっかりと降圧が期待できる薬剤、用量を提案しましょう。他院との重複がないかもしっかり見ておきましょう。処方提案が通ったら、患者への説明と、その後のフォローもしっかり行い、事例に記載していきます。
次に、既に何らかの副作用が放置されている患者さんに介入を試みます。重篤なものは当然、医師が対処しているはずですから、命に関わるものは放置されていませんが、薬学的介入により患者のQOL向上が見込めるものがよいです。特に悪心嘔吐、皮膚障害、手足症候群、高血圧、便秘、下痢などの支持療法薬がある程度確立されているものは処方提案を行いやすいです。患者の自覚症状があれば医師への情報提供、処方提案の同意も得られやすいので、このあたりの副作用についてみていきましょう。
末梢神経障害などもいくつか試してみても良い薬剤はありますが、効果の実感がえられることは少ないと思います。介入内容が適切でも、副作用のGradeが改善しなければ事例としてのインパクトが弱いです。
マルチキナーゼインヒビター(レンバチニブ、レゴラフェニブなど)やカペシタビンで発現頻度の高い「手足症候群」を発現している(またはこれらの薬剤を投与開始する)患者を例に挙げてみます。手足症候群は予防・早期発見が重要なため、発現頻度の高い薬剤が開始となる場合は、セルフケアとして保湿剤を予防的に使用します。ヘパリン類似物質系が多いですが、市販のクリーム等を普段から使用している場合は、そちらでも大丈夫です。なければ処方提案してもよいかもしれません。(必ずしも処方が必要ではなく、市販薬でも対応可能なため)
予防薬は症状がでていない状態での使用になるので、アドヒアランスの確認は必須です。特に男性は保湿剤の使用習慣がない方が多いので要確認です。毎回確認して症状がなければ問題ありません。手足の赤い腫れや痛みが症状としてある場合は、ステロイドの外用剤提案を考慮していきます。ここで、末梢神経障害との見分けがつきにくい場合がありますが、基本的に末梢神経障害は皮膚表面に異常がみられず、内部の神経障害によるしびれを痛みとして表現されますので、それで区別します。オキサリプラチンなどを併用している場合は、どちらも起こりうるので注意しましょう。手足症候群は痛みがあればGrade2となり、休薬することが勧められます。同時にステロイド外用による治療開始が推奨されますので、あわせて提案していきましょう。体幹であればvery strongクラス以上を使います。その後の継続的フォローを忘れずに。
このような形で介入していけば、十分に合格が見込める事例を書くことが可能となります。患者さんの年齢、性別、現病歴などなどにあわせて少しずつ調整して薬学的介入を行っていきましょう。次回以降の記事にて、具体的な介入事例を一部紹介します。これだけが正解ということではありませんが、ご自身の事例作成の参考になればと思います。
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